老人の孤独死がこんなにも切ないことをあなたは知っていますか?


リクストリーム管理人の元警察官・桜井陸です。

今回は少し苦手な人がいるかもしれませんが、おばあさんの孤独死について語ろうと思います。

老人の孤独死はとても切なくて悲しい現場です。

 

地球の片隅では今日もだれかが自殺したり孤独に死んでいるのですがそれを法的に処理する人が必要です。

警察官になりたい人はこういう面もよく見て仕事の大変さとやりがいを感じていただければと思います。

(プライバシー保護のため内容を改変しています)

近所のおばあさんを最近みかけない

「毎朝公園でラジオ体操している一人暮らしのおばあさんを1か月見かけないので心配だとの近隣住民からの通報。至急マンションまで安否確認にむかえ」

夜の9時40分ころ、交番で一息ついたころに無線で流れる指令。

そうか。ラジオ体操に来ないなら寝坊しているのか。

 

そう思いたいが、そんなわけはない。

高齢者が1か月も家から出ないなら何かあったんだろう。

指令を受けた僕は相勤の上司と急いで現場に向かう。

寒々としたマンションで

おばあさんのマンションに着き、外観を見ると非常灯が廊下を青く照らしてうすら寒い表情をしている。

そういうマンションはオートロックもなく、人が住んでいる気配さえないので夜は日本とは思えない雰囲気になる。

コンクリートのひびわれた階段をカツンカツンと上がると、革靴の音がマンションに響き渡る。

ドアポストに詰め込まれた新聞紙

おばあさんの部屋前に来る。

ドアポストには大量の新聞紙が詰め込まれており何日も新聞紙を取り出していないことが分かる。

これでほぼ確定する。

 

この中きっと人が死んでいる。

これであとは救急車と葬儀屋を呼べば解決するから帰ろう。

警察官になったばかりの者なら誰しもそう思いたくなるはず。

ただ、警察官の仕事は今からこの部屋に入りおばあさんの安否を確認して死んでいるなら全身をくまなく見て事件性の有無を判断しなければならないのだ。

 

施錠されたドアの向こうには

ドアノブを握り、ゆっくりと回すと鍵がしまっている。

上司は僕に話しかける。

「なあ、桜井。お前鼻はいいか。」

僕は上司の意図が分かり、黙ってうなずくと玄関ドア下の隙間に鼻を近づけた。

玄関ドアの下には小さな隙間があり、気圧の関係で室内の空気が外にあふれる。

 

する。

 

生活臭に交じって。

 

死臭がする。

 

なんとも言えない鼻をつく重たいにおい。

誰もいない部屋から異常な存在感を感じる。

それは孤独に死んだ人が最後に出すサインなのかもしれない。

 

そして警察の仕事をすれば死臭は必ずかぎ分けることができるようになる。

「アウトですね。」

僕は上司に告げると、上司は「そうか。」と小さくつぶやいてうつむく。

 

僕は肩についた無線のボタンを押すと報告する。

「ドアは施錠されていますが室内から死臭あり

僕は白手袋を付けると、室内に入る準備をした。

死臭がたちこめる室内へ

手順は書かないが、ドア鍵を解錠する。

簡素な木製の玄関ドアを開けると室内にはごみが散乱して足の踏み場もない。

その中に、わずかに漂う独特の匂い。

 

ワンルームマンションどこかで孤独に待っているのだ

耳をすますと室内から笑い声が聞こえる。

リビングふすまから明かりが漏れていた。

 

近づくと笑い声が大きくなり、死臭がどんどん強くなる。

それは声にならない言葉のようだ。

 

ここにいる

早くふすまを開けてくれ

 

ふすま一枚を隔てた向こうにある世界。

もう僕には分かる。

ふすまの向こうからはなおも大きな笑い声が聞こえる。

僕はゆっくりとふすまを開けた。

ふすまの向こう側には

6畳の部屋。

古い傘付きの蛍光灯が部屋を明るく照らしている。

畳の部屋には洋服と新聞、空のコンビニ弁当が散乱し山積みになっている。

 

テレビが付いたままで、お笑い芸人がやかましく話し続けていた。

古くてほこりだらけになったテレビの対面にはベッドがある。

 

そこにいた

 

おばあさんはパジャマを着て横たわっているが、真っ黒に変色していた。

ベッドの毛布はおばあさんの死後排出される体液を全て吸い込んで黄色く変色している。

目と口はくぼんで顔は判別できず、白髪だけが蛍光灯の光を反射してキラキラと光る。

もはや魂が抜けて形だけの肉体は最後の瞬間を誰にも看取られることなく、未だテレビをつけたままベッドで眠っていたのだ。

平等な死と不公平な死

ベッドの周辺にはハエがブンブンと飛び回る。

古い木製タンスには夫の遺影と電子レンジサイズのほんとうに小さな仏壇。

そして子供の写真が飾ってある。

 

これが老人の孤独死だ。

どこかにいるはずの子供の写真を飾り、長年連れ添った夫の遺影を飾り孤独にこの世を去る。

終活なんて言葉はどこにも存在しない。

 

こんな不公平な死に方があっていいのか。

死は誰にでも平等に訪れる。

それなのに死を迎える最後に不公平があっていいのか。

 

こんな薄ら寒いマンションで、たった一人で死を迎えたおばあさんがどんなひどいことをしてきたというんだ。

寂しくなかったかい、おばあちゃん。

もうこれで大丈夫だからね。

大好きな旦那さんのところに帰ろうね。

死体が伝えるメッセージ

警察官は死体なんて怖くない。

死体には色んなドラマがある。

死臭は死者が伝えるメッセージだ。

 

このおばあさんの死体からは事件性がないことを捜査し、警察官は遺族に遺体を引き渡す。

作業的になってはいけない。人の死には必ず最後に伝えて欲しいメッセージがあるんだ。

部屋には死者が最後まで残した生活がそのまま保存されている。

 

息子にあてた届くはずのない手紙。

若い時に夫婦で撮影した写真。

食べきれなかった粗末なコンビニ弁当。

ぼろぼろになった仏壇のろうそく立て。

 

死は誰にでも訪れる。

だからこそ、僕は死を迎える最後の瞬間は温かく送ってあげたいとこの仕事をして強く思うようになった。

そして、孤独死を見たときは心の中でいつも「お疲れさまでした」と念じていた。

 

生まれてきたときは祝福されてきたはずなのに、最後は真っ黒に変色して孤独に人生を終える。

長い人生をねぎらう言葉をかけてあげないと、魂が報われないじゃないか。

 

寂しくなかったかい、おばあちゃん。
もうこれで大丈夫だからね。
大好きな旦那さんのところに帰ろうね。

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