無罪の可能性も?神奈川県の東名高速道路で起きた死傷事故

自動車運転処罰法違反、過失運転致死傷、東名高速

リクストリーム管理人の元警察官・桜井陸です。

今回はテレビで話題になっているニュースについて、一般の方はほとんど気づいていないポイントと警察官志望者には是非とも理解してほしいポイントを書きます。

神奈川県の東名高速で起こった事件

今年6月、神奈川県の東名高速道路で追い越し車線上で停車中の車にトラックが追突し、乗車していた夫婦が死亡、同乗の娘2名が軽傷を負うという事故が発生しました。

この事故で平成29年10月10日、福岡県に住む25歳の男性が自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)と暴行の疑いで逮捕されました。

事故については下記のとおりで、A(25歳の被疑者)が高速道路上で停車してB(今回亡くなった被害者)を車から引きずり出そうと暴行を加え、その際にC(大型トラック)がBに追突してB夫婦は死亡したというものです。

神奈川、東名高速、事故

このニュースを見てすぐに思ったのは、とんでもなく難しい事件だなということです。

もしかすると、Aは無罪になる可能性も高かったのです。

今回は起訴や裁判などの話を少しだけするので、もし聞いたことがない方はこちらを参照ください。

世間の声は

世間のニュースやネットを見るとAについて

  • Aは見た目も悪者だから犯人に間違いない。
  • なんで殺人の罪で逮捕しないのか。

という部分を見聞きしました。

第一印象や事件の悲惨さから世間の人がAについて悪い印象を持つのは当然だと思います。

 

みなさんはニュースを見てどう思いましたか?

このAは殺人犯と思いますか?

誰しもがそう思いたいところですがそうはなりません。

今回、殺人罪は絶対に適用されません。

殺人というのは人を殺す意思が必要なんです。

殺人罪が適用できない理由

もし高速道路で相手の車を停車させれば死ぬ可能性もあったんだから殺人罪で逮捕するべきだという意見もあるかもしれませんが、殺人罪では絶対に逮捕はできません。

法律的な話をすると、逮捕する際は逮捕状が必要なのですが逮捕状は裁判所が発布します。(現行犯逮捕を除く)

警察は逮捕状をもらうために犯人がどれだけ悪いことをしたのかを書類に書いて裁判所に提出し、裁判官がOKをくれたらやっと逮捕状をもらえるのです。

今回のように死ぬとは思わずにした行為が結果的に死に至らしめた行為を未必の故意と言いますが、これは今回の事件には全く馴染みません。

逮捕行為の難しさ

逮捕とは一人の人間をしばらく檻の中に入れて取調べるという、ある種では人権を侵害する行為です。

ですので裁判官も「合法的に人間を牢屋に入れて取調べできる書類(逮捕状)」を間違って発布すると自分の責任になりますからきっちりとチェックしますし、間違っていたら逮捕状は出してくれません。

どんなに悪人でも書類が間違っていると裁判官はハンコを押してくれないのです。

警察と裁判所がこれだけ厳格に区別されているのは学生時代に三権分立と習ったように警察と裁判所が癒着すると国家権力が強くなりすぎるから力を分散させているわけです。

今回の事件は警察も検察も悩ませた

話を事件に戻しますね。

今回の事件では警察も検察も相当悩んだと思います。

検事と打ち合わせして、どんな罪名で捕まえることができるのか相当協議したはずです。

 

もしかしたら今回の事故だけでは逮捕が厳しいので暴行という罪も併せたのかなと僕は考えます。

車から引きずりおろしたという暴行罪は間違いなく犯しているので逮捕状が出るのですが、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)という一番問題になっている罪に関しては相当苦労したはずです。

それは何故か。

法律的なことを詳しく話すと悪用されそうで少し不安になったのですが、そこをぼやかすとブログを立ち上げた意味がないので書きます。

警察官志望者は今から書く内容をよく読んでください。

今回の事件が立件するのに難しい理由

今回の事件を良く考えてください。

Aの車はどんな状態でしたか?

動いていましたか?

いいえ、完全に停車中です。

ということは運転していないのだから自動車を運転する行為を終了しており、交通事故そのものが成り立たなくなるのです。

 

もしあなたがどうしても何か用事があって路上駐車していたとします。

そして駐車した車の陰から近所の子供が飛び出してトラックにひかれた場合はあなたに罪はありません。(駐車禁止はありますが)

ではなぜAを逮捕できたのでしょうか?

事件の争点

今回の事件は停車した行為と死亡事故の因果関係が争点になると思います。

事故発生時間を調べると午後9時35分ということで、夜間に停車していたBがハザードを点けていなかったのでCが気付かず追突したということです。

そしてAだけではなくCもいる。

ここが一般の方に気付いて欲しいポイントなんです。

 

B夫婦は今回追突されて亡くなっています。

つまりAではなくCがBを結果的に死に至らしめたのです。

Cもなんらかの罪に問われる可能性は高いです。

なぜなら車を運転する際は安全運転を遵守しなければならないという法律があるからです。

 

世間ではAのことばかり言われていますが、AのせいでCという無関係な人間も巻き添えを食っています。

起訴はされませんが免停になるなど不利益は間違いなく被ります。

そして人を二人殺めて幼い子供だけを残した張本人は自分なんです。

一生消えない傷を背負って生きるのはAじゃなくてCなんです。

Aの罪を問えた理由

今回、なぜAの罪を問えたのか。

それははっきり書くと

  • 発生場所が高速道路だったから
  • Aの車が故障もなく動いたから
  • 時間帯が夜だったから

です。

今から分かりやすく説明します。

 

高速道路では駐停車は原則禁止です。

それでもやむを得ない理由があれば例外的に認められます。

つまりAにやむを得ない理由もなく停車したという事実がなければ今回の罪は問えませんでした。

 

Aを逮捕できた理由。

それはAが高速道路上でBを煽り、正当な理由もなく運転行為を終了して高速道路上で停車してBを自車後方に留め、車を降りるとBを引きずり降ろしたという一連の流れがあったからです。

さらに発生時は夜で視認性が悪いにも関わらずハザードランプも点けずに駐停車禁止の高速道路で停車して死亡事故を招いたという部分が重なり逮捕状が出たのです。

取調べのポイント

僕は今回の事件には全く関わっていないので捜査方針は分かりませんが、調書でAに聞くポイントは分かります。

それは

車は故障もせずに動いたのか

です。

 

もしAの車が故障してやむなくBの前で停車してしまった場合はCだけの責任になったはずです。

ドライブレコーダーを見ていないので詳しく分かりませんが、今回も煽る行為と死亡事故はほとんど因果関係はなく、理由もなく停車した行為について今後取調べが進むと思います。

理不尽な事件になっていた可能性もある

もしこれが昼の一般道で起きた事故なら、そしてAは車が故障して止まったと言い張ったなら、Aは暴行罪という軽い罪のみで立件されており弁護士次第では不起訴だった可能性もあります。

犯人はCだけになっていた可能性もあるんです。

そしてAがBとはもみ合ってお互いに暴行したと言い張る場合、Bは死亡していても暴行罪に問われます。

こんな不条理な話はありません。

 

警察は今回の事件で逮捕状を受けるまでに4か月かかりました。

その間に目撃者など約260人から事情聴取してドライブレコーダーを精査して完全に固めてから踏み切っています。

それだけ難しい事件ということです。

そして目撃者からは

  • AのBに対する煽り行為がどれだけの距離・時間継続したか
  • Aの車が正常に動いていたか
  • Aが本当に運転していたか

について重点的に聞いていると思います。

警察官志望者によく考えて欲しいこと

警察官志望者にはここをよく理解して欲しいと思います。

悪人を捕まえるためには膨大な資料が必要になります。

悪人が犯罪を犯したと誰が見ても間違いないと断定できる証拠が必要になります。

誰かを捕まえるというのはそれだけ大変ということです。

 

犯人にも人権はあります。

犯人は逮捕されて檻の中(警察署には留置場と呼ばれる、逮捕された犯人が入る部屋があります)に入っても権利はしっかりと守られます。

捕まえた凶悪犯にも家族がいて面会を受けて手紙を送受信したりする権利があります。

食欲もあるので三食しっかりと食事を出します。

おやつを食べる権利もあります。

漫画だって読めます。

お風呂も入れます。

無料で病院に行き何度でも診断を受ける権利があります。

無料で薬を貰えます。

被害者は死んでいてもです。

 

何度も書きますが、捕まえた犯人には人権があります。

それを守らなければ人権侵害となって不手際をした警察が悪となり、せっかく捕まえた犯人が裁判で有利になる可能性が十分に出てきます。

警察ドラマに出てくるような取調室で犯人を殴ったり顔にスポットライトを当てたりすることは絶対にありません。

犯人の人権を最大限に尊重して、適法に取調べをしなければならないのです。

新人警察官が仕事で最初に違和感を感じるのはこの「逮捕された犯人に対する接し方」で、おもてなしをしているように感じるかもしれません。

犯人が捕まっても後味が悪い

最後に、今回Aが逮捕された法律は自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)といいます。

これは平成24年4月、京都の亀岡市で無免許の少年が登校中の小学生に突っ込んで3人が死亡、7名が重軽傷を負った事件から犯人をもっと厳しく処罰できる法律を作ってほしいと遺族からの願いもあり新しく施行された法律なんです。

 

京都の事故では子供が犠牲になり、今回は子供が父と母の両方を失う二次被害者になっています。

ちなみに京都の事故では5年以上9年以下の懲役刑が言い渡されましたが、今回の事件ではもう少し軽い実刑になることは間違いありません。

幼くして父母を亡くした子供たちの心中は想像を絶します。

 

犯人が捕まっても本当に後味が悪いです。

少しでも今回の事件で傷を負った幼い子供の心の傷が早く癒えることと、Aのようなドライバーがいなくなることを心から祈ります。

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