合同就職説明会での話。ブースで転職希望者に会社の説明をしていると、20代後半の現役中学教師女性から「自分らしく生きるにはどうすれば良いでしょうか?」と相談された。
僕は女性に「自分らしさを忘れることだと思いますよ」と答えると彼女はハッとした顔をして、それから20分ほど中学教師という仕事の過酷さを聞いた。
どこの世界も大変だし、理想の職業だと思って就職しても悩みは尽きないんですよ。そう言いたかったけど必死に窮状を訴える目を見ると黙ってうなづくしかなかった。交番と似てるなあと思った。
机を挟んだ向こうには悩みを抱えた相手が必死で僕に訴える。当時の僕は警察官だった。ほこりとアスファルトの匂いが充満する古臭い造りの交番で、質素なパイプ椅子に腰かけて多くの人から相談を聞いた。
相談が終わり「ありがとうございました。お巡りさんに話を聞いてもらって楽になりました」とお礼を言われた瞬間、僕は逆に相手にお礼を言いたくなっていた。
数年前まで公務員浪人だった俺に感謝してくれてありがとう。相談してくれてありがとう。
人に頼られると自信に変わる。必要とされると自信に変わる。頼ってきた相手が喜んで帰ると更に自信に変わる。周りの同僚がそれを見て褒めてくれると更に自信に変わる。
仕事で自信がつくとはこういうことだったのかと気付いた。警察官になって人から頼られたい。自信がつけたいから、自分を変えたいからこそ警察官という仕事に憧れる人は多いんじゃないかと思う。僕がそうだったから。
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警察官採用試験対策をしていて、よく相談を貰う内容に「自分は警察官に向いているのでしょうか?」というものがとても多い。その質問をする人の多くは自分らしさという固定観念に縛られていて『人から〇〇と思われているからできない・恥ずかしい・キャラじゃないから』と自分の殻に閉じこもっているのではないだろうか?
実は僕も警察官になるまではこういう人間だった。不器用で気が弱く、恥ずかしがり屋で引っ込み思案。すぐ調子に乗るけど打たれ弱く、少し批判されると自信は微塵もなく打ち砕かれて自己嫌悪。
それでも警察官になれた。不器用で弱気な僕が警察官になって、色々な人の相談を聞くうちに感謝されて頼られて、リピーターができてファンができて交番に僕を指名するお客さんが来るようになった。
ありがたいなあ。給料もらえて感謝されて自信がつく仕事って。いつもそう感じていた。
そして僕は警察官になって数年後、中学の部活の同窓会に呼ばれたとき先輩女性から「あんた変わったねえ」と驚かれた。普通にみんなと話ができて、女の子に冗談が言えて堂々としてて昔のイメージと全然違うね、と。
先輩に言わなかったけれど、実は僕は同窓会に参加することが夢だった。
いじめられて誰ともまともに話すことができず、作り上げた自分のキャラで痛々しく振舞って、一人になったとき自己嫌悪に陥る幼い僕はいつの間にか堂々と仕事の話ができる大人になっていた。
誰かが作り上げた自分らしさという虚像に囚われて、自分を変えたいのに恥ずかしくてもどかしい思いをしている人に伝えたいのは『変わりたいと願う人はいつか必ず変わる』ということだ。
僕は警察官になっても警察学校にいる間、日記にいつも「変わりたい。変わりたい。いつか理想の自分に変わりたい」と書いて寝ていた。
警察学校を卒業して本署に出勤する前、いつも日記に「今日は自信をつけよう。大丈夫、大丈夫。ゆっくりと成長しよう」と書いて交番で働いていた。歯ぎしりするほど不器用で自分が大嫌いだった。
その僕はいま合同説明会で現役の先生から転職相談を受けるまで成長できた。
相手の悩みが全て理解できて、ポイントを押さえてアドバイスすることができるようになった。
人は変われる。時間がかかっても変わることができる。僕がそうだから。
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